鏡石町は、唱歌「牧場の朝」のモデルになった、福島県中南部の小さな町です。高速道路もJR東北本線も通る便利な立地で、北は郡山・南は白河という大きな街に挟まれたベッドタウン的存在。梨、りんご、いちごなど旬の果物をはじめ、お米やきゅうり、マッシュルームなどの農業、さらに畜産も盛んです。
鏡石町は、「料理でまちづくりプロデュース業務」と「油田プランニング業務」という2つの活動で地域おこし協力隊を募集中。子どもや若い世代も多いこの町に、なぜ、地域おこし協力隊が必要なのか?
今回は「料理でまちづくりプロデュース業務」を中心に、活動を支えるみなさんにホントのところを話してもらいました。
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■1 対談参加者は、活動のキーパーソン達
鏡石町の協力隊員の活動の場は、JR鏡石駅に直結するまちの駅「かんかんてらす」です。店内では町の特産品が販売され、観光や交流の起点にもなっている場所。町のほぼ中央に位置するこの施設に、協力隊をバックアップしてくれる町のキーパーソン4人が集まってくれました。「活動拠点スタッフ」「町役場」「まちづくり実行委員」それぞれの視点から、協力隊のミッションと「協力隊にしか出来ないこと」を聞いていきます。
かんかんてらすって何?
Q 八木さんは「かんかんてらす」のスタッフリーダーということで、「料理でまちづくりプロデュース業務」の協力隊の方と直接一緒に働くわけですよね。まずは施設について教えていただけますか。
八木さん 「かんかんてらす」はJRの駅に直結していて、地元や周辺地域の特産品を販売したり、イベントを開いたりする「まちの駅」です。私は施設立ち上げと同時にここで働き始めました。
職場となる「かんかんてらす」は、JR鏡石駅と同じ建物の中にあるまちの駅です。
Q どんな方が「かんかんてらす」を利用されているんですか?
八木さん 平日は地元のお客様、土日になると町外のお客様が増えます。鏡石町は農家さんが多いので、いちご、桃、梨、りんご、ル・レクチェ(洋梨)など四季折々の新鮮な果物を直接納品してもらっています。新鮮な農作物はお客様にも人気ですね。ここ3年くらいでだんだん施設を覚えてもらえてきたかなと思います。
地域おこし協力隊と関わる、まちのサポーターさん
Q 町役場の石井さん、今回はまちのみなさん(清野さん・木村さん)にもお話を伺うわけですが、みなさんと協力隊はどのように関わることになるんですか?
石井さん 隊員には、「まちづくり実行委員会」にも入っていただきたいと思っています。何かしようと思った時、清野さん・木村さん達にも相談できると思うので。
Q なるほど、力強いサポーターというわけですね。では、自己紹介をお願いできますか。清野さんは、まちのキャラクター「牧場(まきば)のあーさー♪」開発やまちのCMづくりにも携わられているんですね?
清野さん 携わっちゃいました(笑)。鏡石には18歳までいたんですけど、町を出て大学生・サラリーマンをやって、16年前に戻りました。以前は旅行代理店にいたので、まちの観光振興に手を貸してくれと巻き込まれたのが最初です。「まちづくり実行委員会」で色々な事業をやる中「牧場のあーさー♪」が出来上がったので、我が子のように愛してやまない存在になっています。
Q ありがとうございます。木村さんは、子ども食堂を運営されているんですね。
木村さん 前職では全国を飛び回っていたんですけれど、親友がシングルマザーになっていたことで周りに目を向けるようになり、鏡石に戻って子ども食堂を始めることを決めました。まちおこしをしたいっていう気持ちもありました。
■2 地域おこし協力隊の活動は、「町民にはできないこと」?!
地域おこし協力隊のしごととは?
Q さて、今回鏡石町は、満を辞して初めて地域おこし協力隊を募集することになりました。
石井さん いや、正直言うと、満を辞してって感じではなかったんです。地域おこし協力隊って山間地などの集落で働く印象が強くて、鏡石に必要だという認識がありませんでした。ここは他地域に比べて人口減少もゆるやかなので…。
Q そうなんですか。じゃぁ、逆に、募集をはじめたのは何故なんですか?
石井さん 町の取り組みとして、特産品を売る「かんかんてらす」があり、農業と観光を連携させた「田んぼアート」や「油田計画(菜の花畑)」が始まったことで、町の外から人を呼び込もうとする動きが活性化してきました。町長も「農業」とか「食と健康」という言葉をよく使われています。鏡石の「食と健康」を考えるにあたり、外からの視点でもアイデアが欲しいという思いで、協力隊募集をすることになったんです。
Q 「外の視点」というのは?
石井さん シンプルに、新しい視点で、自分たちが気づかないまちの魅力や、行政ではなかなか変える事ができない課題を発見してほしいという思いがあります。長年この町に住む自分たちには当たり前でも、知らない人から見たら気づくことがあるんじゃないか、それを何か形にできるんじゃないかという期待です。
Q 「油田計画」なんて、そもそもユニークな発想ですよね?
清野さん そうですね。草だらけの田んぼがどんどん増えていくのを見ていて、近所の人(発案者)と「ここからやっていこうぜ」って始めたことなんです。
私たちの親世代は専業で、我々世代は兼業で田んぼをやったけれど、下の世代はそこまでしてやる必要はないって思うんですよね。すると田んぼが荒れていっちゃう。だから最初は、荒らしておくより花でも植えようかという発想でした。「花が咲いたらキレイじゃない?菜の花なら油も取れるね」って。
地域おこし協力隊の方にも色々見てもらって、何か「違った見方」をもらえたらいいなというのが希望です。
(左)菜の花が咲き誇る「油田」。5月頃に見頃を迎えます。(右)見事な田んぼアートの稲刈りイベント。
Q 協力隊員は「かんかんてらす」で活動するわけですが、どんなことをしてほしいとか、「かんかんてらす」をこうしていきたい、という思いはあるのでしょうか?
八木さん 「かんかんてらす」は情報と産品の直売所です。まずは、まちの6次化拠点として、特産品を作りたいと思っているんです。
それと、農家さんを訪問して話を聞いたりもしてほしいんですよね。地元の人間には、あまり詳しく話してくれないものなんですよ。照れくさいとか、『知ってるでしょ』ってね。でも、都会から来た人・農業を知らない人が質問すれば、「ちょっと協力してやるか」と心の内を聞き出せるんじゃないかと期待してるんです。
Q 農家さん同士をつないだり、情報発信をしていくような役割ですね。
八木さん そうです。農家さんを訪ねて写真を撮って、この人が作ったものだよ、と。そうした活動を通してちょっとずつ輪が広がって、「かんかんてらす」が自然に大きく明るくなっていく、そんな夢があります。
Q 商品化についてはいかがですか?
八木さん 都会ならではの知識やアイデアがあったら嬉しいですね。私たちは、菜種で菜種油を作ったらそれだけになってしまう。その油から何かを作りたいと思ってもアイデアが限られるんですよ。食べるラー油とかドレッシングとか…特産品に展開して欲しい。ひとつの商品で終わるんじゃなくて、拡げていきたいんです。
Q 鏡石町の産物というと、どういうものがあるんですか?
木村さん いちご、なし、きゅうりとか…
八木さん ジャムなんかは作りやすいでしょうね、春夏秋冬の季節のジャムとか。
今「かんかんてらす」で作っているのは、米粉のシフォンケーキ。田んぼアートで作ったお米を米粉にしました。私たちが知らない産品もまだ沢山あるので掘り起こしていきたいし、商品化して拡げていけたら良いですよねぇ。
清野さん 今、一般的な加工品はあるもののも、「鏡石産の特長はこうだから、コレ」という商品は少ない気がしています。いちごは全国的にあるけれど、鏡石のいちごはどうか。「あ、こんな食べ方もあるんだ」という紹介の仕方ができたらと思うんですよ。ミッションは「6次化商品開発」ではあるけれど、必ずしも加工じゃなくていいから、その方ならではの発想が欲しいですね。
なんならモノじゃなくても良くて…例えばこんなパッケージにしましょうとか、郵便局で買えるとか、そういうシンプルなものでも良いから発想が欲しいということなんです。
Q なるほど。そういう意味では、「かんかんてらす」で、学校との連携事業(メニュー開発)もされているんですよね?
石井さん はい、すでに動いている事業もありますが、今後は産学官の連携事業も実施していく予定です。そこに協力隊の方がいたら良いなと思っています。ただ、もちろん協力隊はその「ヘルプ」ではないので、もっとフラットに、ご自身の力を発揮していただきたいです。
(左)お店で販売されている、高校生との共同開発商品。(右)田んぼアート米で作った米粉のシフォンケーキは「牧場のあーさー♪」の焼印入りで、カンカンテラスの厨房で作る焼き立て。
魅力あるまちづくりのために、風穴を開けたい
Q 清野さんは、鏡石も変わっていかなきゃいけないとおっしゃっていましたが、それはなぜですか?
清野さん 「変える必要がある」んじゃなくて、何かやってみましょうよ、ってことなんですよね。ここは交通が便利で、南北に大きな街があって、住むのに丁度いい町なんです。平成の時代に市町村合併なんかもありましたけれど、鏡石は今後も独自で残っているんじゃないかなと思っています。ただ、このままではちょっとまずい。キラリと光る町であるためには、今手を打っておかないといけないという、漠然とした焦りです。変わらなさすぎる。停滞は退化じゃないかなって。
木村さん 私も危機感はありますね。鏡石自体には産業が少なくて、大きな街に行かないと仕事がないので、子どもが多いのに外に出ていってしまうんです。でも、実はアイシングクッキーのめっちゃ有名な方がいたり、NASAのロケット部品を作っているような企業もあるんですよ。
清野さん ポテンシャルはあるんだよね。門戸も開かれてるし。
木村さん あとは、どこかとどこかをつなげるとか、風穴を開けるだけなんです。それができれば、鏡石は他に負けないくらい魅力的な町になれます。
八木さん いやいや、話が大きくないですか。まずは身近な仕事から手伝ってほしい。
木村さん あ、確かに。そうですね(笑)。
八木さん あまり色々要望出して「うわー」ってなっちゃったら、来る方もやりにくいでしょうから、1つ1つゆっくりと(笑)。商品開発については、きっかけを作ってくれたら活動が活性化すると思うんですよ。動き始めたら、協力してくれる人は沢山います。
町民からみたまちの魅力
Q 鏡石に住んでいて良いと感じるところをお聞きしてもいいですか?
石井さん アクセスが良いっていうのはどの街にも真似できないものなので、良いところだと思います。街自体がコンパクトで山間部もないし、コミュニティは作りやすいと思っています。
清野さん 生活に必要なものはぎゅっと揃ってますね。
石井さん 若い世帯が多くて、施設もかなり充実しています。この町のサイズで図書館があって、町民プールがあって、陸上競技場があって、テニスコートとか野球場とか…大体揃ってるんです。逆に近隣市町村の人が使っているくらい。そういう意味ではかなり恵まれているんじゃないかなと思います。
清野さん 小さいなりに恵まれていて、農業の収益率も高いね。でも、1位がない(笑)
Q まちづくりに興味がある人が好きそうな街ですね。
木村さん そうですよね、いじくり甲斐がありますよね。私も協力隊やりたいな。応募していいですか?
石井さん はい、じゃぁ…「地域要件」っていう決まりがあるので一旦東京に戻っていただいて…
全員 笑
Q どんな方に来て欲しいですか?
木村さん 元気な方がいいですね。
石井さん 活動に意欲があるっていうことと、地域の方と明るく接する事ができるということは大事かなと思います。
八木さん 鏡石のことをわかっている方より、ゼロからスタートの方が良いですね。先入観のない人。
石井さん もう連絡くださっている方もいるんですよ。結構人気があるんです(笑)。昨日も電話をいただきました。地域要件が合わなくて残念だったんですけどね。
清野さん 連絡くれる人がいるのは嬉しいね。テンションが上がる。
木村さん 住む家はどうなるんですか?
石井さん 今想定しているのは、町の集合住宅です。家族でも住める広さですよ。
清野さん 協力隊志望の方は、どうやって鏡石にたどり着くの?
石井さん 情報を集約しているホームページなどで見つけてくださるようです。だからこういう情報発信が必要なんですよ!
清野さん え、すごい重要じゃん、これ!じゃぁ、雑談はここまでにして…
全員 (笑) 前置き長かったー!
Q 地域の方がみんなで「待ってます」って言ってくれる雰囲気の地域だと、協力隊になりたい方も不安がなくなりますよね。
清野さん あぁ、もう、それは大丈夫。清野設備が全力でサポートします!
全員 (笑)
■3 活動の拠点「かんかんてらす」を見学
対談後、「かんかんてらす」の中を見学させていただきました。当日イベントスペースでは「いちごフェア」を開催中。あいにくの雨でしたが、絶え間なくお客様がいらしていました。
平台の上には、鏡石産いちごを使った人気の「いちごホイップパン」や、田んぼアート米で作った「米粉のシフォンケーキ」、地元店のお菓子などが勢揃い。イベント後の夕方で、パンがほとんど完売でした。飲食スペースも設けられています。
産品コーナーには、地元の加工品や新鮮な野菜がいっぱいです。しかも、産直お手頃価格!
店の奥のキッチンスペース。この日は焼き立てのシフォンケーキなどが作られていました。この他菓子製造室もあって、商品開発には恵まれた環境。厨房の貸切利用やチャレンジショップも可能です。
■4 若手生産者の「いちごハウス」もちゃっかり見学!
活動にも関わる生産者の現場を知らなければ!ということで、鏡石町でいちご栽培を行っている飛澤さんのいちごハウスにもお邪魔しました。
最初に驚いたのはこの広さ。このハウスでは旬を迎えた「ふくはる香」が、次々に実をつけていきます。鏡石は寒暖差の大きい気候。ハウス栽培でも、気候は大きく影響します。陽が落ちるとしっかり冷える鏡石はいちごがゆっくり育つので、甘みをぎゅーっと蓄えた美味しいいちごになるのだそうです。
畝(うね)を高くした栽培方法も工夫のひとつ。一番花、二番花、三番花と次々に花を咲かせていきます。これから色づく小さな実が鈴なりに並び、収穫を待つ熟したいちごがひときわ赤く輝いて見えました。
鏡石のいちごが美味しいもうひとつの理由が、生産者の「直売」。品種や産地でひとくくりにするだけでなく、家の軒先や道の駅、「かんかんてらす」などの直売所で、自分の名前を出して販売することが競争力につながっているとか。
6次化商品の開発を通して、町の人たちの想い、生産者のこだわりや情熱を多くの人に届けるという意味でも、鏡石町地域おこし協力隊の活動は大変やりがいのある仕事だと感じました。