田村市は、標高400〜700mの高原のまち。長い年月をかけて作られた鍾乳洞や満天の星空を臨む天文台、ブルワリーに隣接するオートキャンプ場など、「ここが日本!?」と思うほどスケールの大きな観光資源に恵まれた土地柄です。2005年に5つの町村が合併。2011年の原発事故で避難区域となったエリアの中で一番早く復興への道を歩み始めたこのまちは、恵まれた観光資源を活かし、震災前の集客を目指して利用促進活動を行っているところです。

INDEX
 _■1 田村市の地域おこし協力隊のミッションとは?
 _■2 見学&交流① グリーンパーク都路+ホップジャパン
 _■3 見学&交流② あぶくま洞
 _■4 地域の想い


■1 田村市の地域おこし協力隊のミッションとは?

オープンキャンパスが行われたのは、2021年3月。ガイドするのは、市役所の本田さんと、受入団体となる「NPO法人くらスタ」の佐原さんです。参加者として、田村市の協力隊に興味を持ってくださっている3名を関東圏から迎えて、イベントスタート。車中でオリエンテーションをしながら目的地へと向かいます。


本日のガイド役、市役所の本田さん(左)と、受入団体「くらスタ」の佐原さん(右)。漫才のような軽妙な掛け合いで場を和ませてくださいます。
(※当日はコロナ感染症対策を行い、
実施しました。)

─協力隊のミッション─

今回募集されたのは、下記の2通りの協力隊。それぞれの拠点を見学し、現地でお話を伺います。

  1. 「あぶくま洞」の利用増進に向けたプロモーション
    幻想的でダイナミックな鍾乳洞「あぶくま洞」のプロモーションを担当する協力隊員。震災前、あぶくま洞は全国から年間30万人もが訪れる観光スポットだったとのこと。近くには東北最大級の天体望遠鏡を備えた「星の村天文台」もあります。集客を増やすことはもちろん、「施設の中身を充実させて、周辺施設と一緒にもっと楽しめる観光エリアをつくっていくこと」が求められています。
  2. 「グリーンパーク都路」の利用増進に向けたプロモーション
    もとは牧場だったという広大な敷地にオートキャンプ場を備えたリゾート施設「グリーンパーク都路」のプロモーションを担う隊員。ここには「ホップジャパン」というブルワリーがあり、ホップの自社栽培から始まるクラフトビール作りが行われています。施設への集客とともに、アウトドアカルチャーを盛り上げ、まちに新たなイメージをつくっていくことがミッションです。

─「楽しむ」を仕事に─

受入団体の佐原さんも実は移住者。震災・原発事故からの復興を支えてきた方です。佐原さんいわく、「あぁしろこぅしろとは言いません。サポートはしますが、マニュアルなどないので独創性を生かして活動してほしい。外からの目で、まちの人に見えていないものを見つけて教えてほしい」とのこと。「よく仕事を楽しむといいますが、そうじゃなく、楽しむのを仕事にしてください!」

■2 見学&交流① グリーンパーク都路+ホップジャパン

山道を登ってグリーンパーク都路に到着。「ここは日本なの!?」というほど広い!なだらかな丘陵の奥は、麦博士が監修する大麦の畑。実りの季節には一面が金色に色づくそうです。

最初の目的地は、「グリーンパーク都路」。
施設の運営を担う「ホップジャパン」は、確かな醸造技術と地元農家産ホップがつくる美味しさで人気を集める、クラフトビールのブルワリーです。ホップや大麦生産などの1次産業からビールという6次化製品をつくり、ビールを絞ったカスは肥料・飼料として再利用する持続可能なビジネスモデル。その循環の中に食や体験などの楽しみを採り込みコミュニティをつくるスタイルは、本間社長が「ただのビール工場ではないんです」と胸を張る所以です。
ホップジャパンのラインナップ。2021年には、地元産の手摘みホップだけでつくった商品も発売。さらに福島の麦・福島の酵母でつくるALL FUKUSHIMAビール実現に向けて動いているとか。


「この人を野に放てば遊びが生まれる」といわれる副社長 三輪さんの案内で、リノベーションをしている最中のロッジを見学。「キャンプにはオフシーズンがあるけれど、ここなら、ビールを飲みながらオールシーズン楽しんでもらえる」とのこと。


広大なグリーンパーク都路内を見学する途中、足元には春を告げるフキノトウが芽を出していました。移動の最中にも、参加者とまちの担当者が個別に話ができるのは、オープンキャンパスならではのメリットです。

昇降式のホップ畑も見学。成長期には1日30cmも伸びるそうです。収穫体験や畑レストランも実施。アイデア次第でいくらでもチャンスが広がることが実感できます。

ハガさん(写真左)は田村市を何度も訪れ、移住することはほぼ決めているとか。「以前より着々と施設が増えていますね。キャンプも好きなので活用していければ、と」。

見学後は、対話の時間。グリーンパーク都路が協力隊に求めるのは、このリソースを使って、集客・活性化すること。「ハードを活かすソフトの部分に期待している」と、三輪さん。
参加者からも「こんなにスケールの大きな醸造所は他にないと思う。トレイルランニングなども好きなので、それを活かした企画ができたらいいなと思います」といった声がありました。

醸造士の大島さんは協力隊OB。現在、大学時代に起業した事業を続けながら、ホップジャパンで食を通した地域の魅力づくりをされています。

広大な施設とアイデア実現の可能性を体感し、受け入れ側の想いを受け取って、グリーンパーク都路の見学を終了。次の目的地へと向かいます。


■3 見学&交流② あぶくま洞

2つ目の目的地は「あぶくま洞」。伊藤所長と青木さんの案内で、まずは鍾乳洞内を見学させていただきます。


参加者の皆さんも、鍾乳洞は初めてとのこと。幻想的な大自然のアートは、太古の時代から、雨水が地中の石灰成分を溶かすことで形成されてきたもの。その成り立ちの歴史もさることながら、高さ30mという「滝根御殿」のスケールと、幻想的な美しさにただただ圧倒されます。


鍾乳石はつららのように垂れ下がるもの、筍のように上に伸びるものなど多様。現在の見学ルートは600mほどですが、実はその奥に3kmを超える未公開部分が広がっているのだそうです。


地元産品が並ぶ館内の売店も視察しました。商品の見せ方やより魅力ある商品開発、さらにレストランでの食の体験なども考えていきたいとのこと。

見学後は、感想を述べ、施設の方々と対話する時間へ。
「新規客の獲得と、毎年来てもらえるようなリピート施策が現在の課題です。一方、調査途中の未公開ゾーンにも、20mの一枚岩や水中から顔だけ出して進むような場所など、コンテンツにあふれている。今後は観るだけの『着地型』から、冒険や地元の食をからめた『体験型』のアクティビティをつくることも考えています。また、SNSも効果的に使いたい。そのためにも新しいアイデアをいただきたいと思っています」。
伊藤所長らから、現在の取り組みや課題、今後の展望がストレートに共有され、参加者からも様々な意見や質問が出されました。

「星空のソムリエ」の資格を持つミヤモトさん(写真左)は、あぶくま洞のミッションに興味があって、オープンキャンパスに参加。「洞内は音の反響が良くて、コンサートやプラネタリウムなどのイベントもできそう」と、早くも具体的なアイデアが生まれているようでした。

所長達に見送られて帰る車中は、往路より少し熱気が高まった感覚。本田さんの話も生活・待遇などに及び、参加者からの質問も活発化しました。「この気持を持ち帰って整理します」という声もあり、それぞれが具体的に検討するタームに入ったことを感じます。
参加者それぞれが意欲を持って興味ある拠点を体感し、自分の得意分野ややりたいこととのマッチングを確かめたオープンキャンパス。3人の参加者が一様に言っていたのは、「現地に来てみなければわからないことが多い」ということでした。

■4 地域の想い

少し名残惜しい気持ちを残しながら、イベントは解散。最後に、担当の本田さん・佐原さんにもう一度お話を伺いました。

本田さん
「オープンキャンパスの狙いは、現場と人を知ってもらい、参加者の人となりを知ることです。私も積極的に働きかけましたし、みなさんに積極的に質問していただけたのも良かったと思います。今回は特に、事前に田村市に関わって、すでにある程度イメージを持っていた方ばかり。かなり具体的なお話ができたので、今後につながるんじゃないかと期待しています。」

佐原さん
「協力隊はモチベーションが大事だと思っています。やる気だけで全てが片付くわけではないけど、“何か役に立てば…”ではなく、自分がなにをすべきかを探しにいける人、挑戦できる方の方が適していると思います。協力隊にはミッションがありますが、自由度は高いです。それぞれの適性やキャリアを生かし、私たちが思いつかないような視点で活躍してくれるなら、それは願ってもない幸運ですね。」

 

田村市の魅力は、当然、今回見学した場所や人だけではありません。さらに現場を知り、人と話し合う中で、意欲やアイデアがさらに生まれ育つはず。貴重なこの出会いが、次の一歩につながることを祈っています。

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